第7回 日本製造業は欧米、中国に勝てるのか、変えてはいけない、進化しないといけない日本製造
- 6月23日
- 読了時間: 14分
1. 日本を取り巻く環境の変化:軍事産業にみるAI・武器開発と素形材
2026年が明け、米国のベネズエラ戦争、イラン戦争を見ても軍事装兵器とAIの進化が激しい。いつものことだが軍事産業が新技術開発をけん引する歴史を繰り返してきたのが事実だ。多くの新技術が軍の“払い下げ“で民間も進化してきた。現在は、プレーヤーの主体が民間企業に移行し、デュアルユースが当たり前になっている。日本の製造業の環境も他山の石ではなく、中国は、デュアルユース製品や特定企業への輸入規制を強化しており、日本の製造業にも影響を与える可能性があるため、国際情勢を踏まえた対応が必要である。
一方で、いくら兵器と言えども基本は素形材にあり日本の技術力を脅威に感じているのも事実だ。耐久性、軽量、強度、耐熱性など日本が育んできた素材、素形材、製造力が将来の製造AIにとっても基礎ノウハウ・データが勝負となることは間違いない。そういう意味で日本製造業・素形材産業も岐路にある。
今一度、日本の製造文化と強みを再認識し、変えてはいけないもの、変えないといけない日本製造文化を議論してみたい。
2. 急速な進化を遂げているAIとロボット、遅れている日本のデジタル製造
2025年からChatGPTやGemini等、生成AIが急激に職場に入り込んできた。日本の製造業各社はどう取り組んだらよいかまだ模索中だ。一方でゴールドマンサックスでは生成AIにより、なくなる仕事10選を列挙して危機感を煽っている。確かにホワイトカラーを主体に業務効率が進み、欧米では人員削減が進んでいる。大学を卒業しても就職ができない状況が日本でも起きつつある。いわゆる“買い手市場”へ移行している。

2015年にオックスフォード大学と野村総合研究所が発表した共同研究では、日本の労働人口の約49%の仕事が10〜20年以内にAIやロボットに代替される可能性があると示された。勿論、無くならない仕事としてその業種も示されている。以上が一般的なAIの社会への影響の見方であるが、製造業の場合どうなるか考えてみよう。
一般論ではなく、具体的に製造業の業務区分・工程に沿ってデジタル化・AI導入した場合を想定する必要がある。以下は“私見”による振り分けを考えてみた。 エンジニアリングチェーンおよびサプライチェーンにおけるAI活用は、大きく「事務・管理業務」と「開発・製造業務」の2つの分野に分けて考えることができる。
LLMなど一般的な“生成AI:文章や画像などコンテンツを自動生成”で業務革新が進むことは容易に想像できる。一方、AIが機械やロボットを自律制御する「フィジカルAI」の分野では、デジタル製造の導入が遅れているため、多くの企業はまだその効果を実感できていない。

また、デジタル製造では、生成AI:大規模言語モデルLLMは間接業務系への適用が進み、製造現場ではフィジカルAI:大規模センシングモデルの活用が進む。この両立が今後の開発・製造現場のAI活用の分かれ道になる。企業自身の生き方にもかかわる大きな選択にあり、自社流にAIをどう使いこなすか真価が問われる。
人材や業務を単純に削減するのではなく、その影響を十分に検討したうえで判断することが重要である。
なぜなら企業は“人ありき”だからだ。勿論、ひとり企業が台頭している現実も見据えたうえでの判断となる。また、一般情報をDBにした生成AIの欠点はデータノイズが多く介在しており、致命傷になりかねない危険性と不適当な回答をすることを承知で使う必要がある。構築すべきは自社ノウハウをDBとしたAI:すなわちプライベート/カンパニーAIを構築すべきである。そのうちAIソフトそのものはコモディティ化し価値がなくなるだろう。
3. 中国、欧米が進めるデジタル製造・フィジカルAIと日本の製造業の歩みとの根本的な違い
先月、ある研究会で中国のロボット製造ラインや米国やドイツなどが進めるフィジカルAI・デジタル製造ラインの紹介動画と現場報告を聞いた。
中国のロボットを導入した切削加工工場では、当然、作業者がいない。動画が進むと突然、横から作業者が“起きて出てきた“。説明では、中国は所詮、人を信用しない社会であるため、ロボット生産が主で、人は単に機械の横で椅子に”寝そべり“で見張り役。2010年代初頭に中国工場で検査表が同じ数字で書かれていたことを突き止めた。検査員も主任も上長もみなグルだった。全く信用できない社会文化を体現した。性善説と性善説、取り組みは全く違う。
アメリカやドイツなどの最新の生産工業ではシーメンスに代表されるようにソフトウェア・AI制御・自動化設備・ロボットなど未来工場そのものだ。それに比べると日本の開発現場、製造現場のデジタル化の遅れは3周遅れの感が強い。欧米の場合は、人ではなく設備生産を主体に人をロボットとみる傾向がある。欧米も人手不足が歴然としており、真剣に無人工場を目指している感がある。
生産性が低い従業員の下位20%は、例外なく解雇の対象となる。軽作業は移民や低賃金労働者の仕事と割り切っており、現場の改善活動は皆無である。
欧米・中国どちらも、利益最優先経営であり、日本的な人を大事にする経営理念とは根本から異なる。
日本的経営の理念は、利益も重要だが、人を大事にする。株主よりも従業員、人は育てるものであり教育を重視するため新卒を採用し続ける。欧米・中国は、極力新卒は採用しない。経験者を高給で雇い、成績下位20%は自動的にレイオフする厳しい社会だ。
なぜ、日本は製造のデジタル化、AI導入が進まないのか。その背景にあるのは何か。考察してみよう。
1)欧米との経営理念、製造への取り組みの違い
社会的信頼とお客様本位、人材を一番大事にする企業文化の精神、年功序列的な経験を重んじ礼儀を大事にした企業文化、品質がすべての行程、プロセスに浸透している。短期でなく、企業永続的発展を大事にする。
→中国・欧米は短期企業業績、ビジネス本位、人材より利益重視
2)開発・製造体系の違い
現場を大事にし、人材育成を重んじ、集団で課題に対処する考え方、技術は積み上げ型で、すり合わせで熟成していく。ノウハウ・熟練技を現場で継承する。
→職種に応じた経験者・スペシャリストを適宜採用、従業員の都合は関係なく成績本位、個人主義
3)製品・サービス・現場の5Sの考え方の違い
品質が第一、現場の5S徹底、顧客へのサービスだけでなく、耐久性、保全を重視。従業員サービスも徹底、福利厚生が充実。
→生産性と利益を最優先、品質・サービスより利益
4)サプライチェーンの考え方の違い
仲間企業を大事にする。同業企業でも付き合う、組合、団体を組みグループ力を重視。
→巣直統合型で内製思考
偏見した考察かもしれないが、確かに経営や事業運営、現場の運営の考え方には日本と欧米・中国とは明らかに違いがあり、デジタルやAIに対する期待と導入の考え方も違って当然。
欧米、中国、日本、それぞれの国・国民文化の違いがあり、一概にどの文化が正しい、良い、悪いと論ずることはできない。
例えば、先般、日本の大手企業がインド工場への日本で成功した製造ソリューションをインド工場でも展開したいとその仕組みを現地のスタッフに説明し、導入に向けた議論を行ったらしい。
結論は、役員から現地のインド文化・人の考え方を理解するところから始めるのが成功の秘訣という結論に至ったと聞く。さすが、インド進出の蓄積したノウハウを垣間見た瞬間だった。個人の意志を尊重し、お互いの共通する品質第一、に向かって、製造設備の最新化、自動化等の説明を納得できるまで説明、その後、導入に向けた議論となった。導入前後の技術サービス、保全/メンテナンスサービスの考え方を丁寧に共有化することから始めているのがよいようだ。なぜ、必要か、何を目的にするか、話せばわかるとのこと。むしろ日本の現場の方が変化を嫌うようなところがある。
4. 日本のデジタル製造とAI導入で変えてはいけないこと、変えなければいけないこと
今一度、日本のものづくりの歴史から考えてみると良い。日本は島国で一致団結して地震や災害に対処し、そのノウハウを継承してきた歴史がある。逃げることができない環境下で、みんなで工夫し、時には持ち出しをして生き延びる術を身に着けている。
(イ)日本の伝統的モノづくり技法とデジタルという新たな技術との共生
1)変えてはならない“職人気質(魂)”
イギリスに始まった第1次産業革命、機織り機の発明、第2次産業革命の蒸気エンジン、そしてコンピュータ・デジタル・ネットワーク革命が第3次産業革命とすれば、今はフィジカルAIとナレッジ革命が第4次産業革命と私は考えているが、それは歴史が判断するだろう。今はロボットとAI開発の途上にある。
一方で、日本のものづくりは、縄文・弥生時代から型を使った製法、鍛造などからスタートした。びっくりするのは当時の銅鐸にも鋳巣やワレなどの不良品が出土されていることだ。おそらく、不良削減に向け、型構造、注湯温度、時間など相当工夫を重ねた“生産技術”開発と“職人技術と気質”が存在していたことがうかがえる。
今のエンジンやミッション、ボイラー等のダイカスト鋳造・生産技術・不良削減、職人気質も今と全く変わらない。いくらデジタル社会・デジタル製造といっても良品を作る、品質を守るという職人気質(魂)は変わらない。

なぜ職人気質が大事か。それはどんな新しいソリューションが開発され、自動化された世界になっても不良はなくならない。なぜなら工場内温湿度変動、電力・水設備などのインフラ変動、それに型・設備・治工具などの劣化・・。数えきれない量産変動因子があり、すべてをコントロール下に置くことは不可能だ。
必ず、量産には人のサポート・職人気質の“品質第一“お客様第一”の精神がないと綻びがおき、工場は劣化していく。
2)変えないといけない職場環境、アナログ職人魂
では、デジタル製造に、人は不要か?AI・ナレッジ開発・デジタル製造現場はどういう体制になるか?
当社は、“積年の銅鐸の鋳造不良”削減に向け、その不良に至るメカニズムの解明を急いでいる。AIで鋳造不良因子を尋ねると数千の因子が提供されるが、解はでない。メカニズム・原因が解明されていないので、答えが出るわけがない。
AIによるQCパレート分析で不良への影響度が高い要因を特定し、溶湯注入から凝固までの温度変化を把握できれば、光ファイバ温度センサによって鋳造プロセスの変動をリアルタイムで可視化できる。さらに、その金型・設備・工場環境・製造条件ごとの凝固プロセスを解析することで、不良発生の真因を明確に特定できる。これこそがAI分析とデジタルセンサの大きな価値であり、従来のCAE解析だけでは把握できなかった現象の解明を可能にする。

この事例から、いくら優秀な技術者・職人でも経験したことがないデジタル開発の世界を見ることになる(型内部の不良因子挙動の可視化)。これがデジタル製造の世界であり、ものづくり技術の進化だ。勿論、繰り返し、繰り返し、トライ&エラーで経験を積んで、不良の再発を防止するカイゼン活動は続けなければ意味がない。それがAIのデータ蓄積活動であり、次世代の新たな“デジタル職人”“デジタル生産技術者”の世界だ。
私がインクス時代に携わった金型の全自動無人工場「零工場」においても、設備保全、材料の運搬・管理、生産技術、ソフトウェア改良を担当する人員は常駐していた。確かにロボットの導入により加工工程の無人化は実現したが、金型品質の維持や加工条件の最適化、チョコ停等の設備トラブルへの対応には、依然として人の知識・経験・判断力が不可欠だ。
(ロ)ものづくりノウハウの伝承とAIという技術
縄文・弥生時代のからの銅鐸製造技術とその生産技術ノウハウが存在し、次の世代へと伝承されて行ったことがうかがえる。銅鐸も剣もその後、日本の土壌で目覚ましい進化を遂げた。良品を安定的に作るという試みは、工程内の技能や条件等の判断基準も受け継がれたことだろう。しかしながら、そのエビデンスは現在残されておらず、口から口、徒弟制度という縛りで厳かに体現でのみ継承されたが“もの”は正直に継承されている。
ここで、注目してほしいのは技術・ノウハウ伝承の「会話と体現」であるということである。いくらメールやLINEで会話できても「体現」はできない。なぜものづくりは進化しているのか? それは、失敗を繰り返して、考え抜いて、工夫して、創造して乗り越えてきたものづくり文化にある。AI設計にそれが可能か? AIは、経験則、失敗例、原因例、対策例など大量なデータ(エビデンス)から最適と思われる「指針」を示してくれるという意味では、大いに参考になる。しかしながら、自社の目前の課題・不良・不具合・失敗に対して真の答えは提供されない。条件や環境が違うからだ。AIはあくまでも他人様の経験則である。
ところが、会話は常に今起きている最新の諸課題に対する対応を議論し、これからの方策を生み出す行為である。これは、太古の昔からの子弟のものづくりカイゼンの当たり前の手法であり、未来永劫変わることはないし、絶対に守り抜く必要がある。「会話文化」を変えてならない、維持継承しなければ発展はない。
時には、仲間と飲むのもよいだろう。一緒に遊ぶのもよいだろう。語らいを忘れてはならない。所詮、ひとりではそこそこしかできないものだ。ものづくりは仲間づくりでもある。
では、AIはどう扱うべきか?
その答えは、昔できなかったノウハウ、覚えたこと、指摘されたこと、現場の不具合、対策したこと、体現したことをエビデンス化して次世代に正確に、手戻りがないように、くだらない失敗を繰り返さないように記録(データベース化)することに使うべきだ。無駄なデータ収集作業、編集作業、検索作業、定型的な標準設計、書類作成作業、製造記録、品質記録、工程記録、会議・会議の連続、開発から製造、出荷まで恐ろしく無駄な提携作業がはびこっている。みんなで諸先輩の経験知を有効活用しようではないか。
私も設計者の端くれ、無駄な作業が50%以上はあり、本来の競争力、製品力、特許などの新発想工数はほんの10%程度した仕事ができないのが現状だ。 とにかく古い開発の仕組みはうんざりである。

デジタル・AIの活用で、そのまったく無駄な作業がなくなり、創造・発明・改善に力を注ぐことができれば新たなイノベーションが生まれる。それは製造現場も同様だ。上図はデジタルツイン開発、設計と現場のデータがリアルタイムの生データ・エビデンスで共有できる。会話の中のノウハウもエビデンス化できるのが未来の目指すべき日本流デジタルAI「開発・製造」のしくみだ。
変えないといけない?開発・製造体制、仕組みとは?
・先輩の自慢話し 昔はこうだった、良き時代だった、何の役にも立たない、うざいだけ、が若者の意見
・属人的なノウハウ 標準化できない、忙しいといって議論に入らない。自分だけでやろうとする、自分流
・現場を知らない上役、社長 決済が遅い、デジタル・AIを理解できない、自らは決してやらない
・エビデンスを残さない 教えてくれない、言われたことしかしない、できない人
・現状のやり方を変えない 変えたがらない人、変えることに嫌悪感を抱き反対意見のみ
いずれにしても、製造業の開発・製造現場の若者・女性の生の声である。そう思うと
・変えてはいけないもの
普遍的な価値観となる。日本物作り文化、そしてイノベーション、失敗して覚える風土、挑戦させる風土
・変えなければいけないもの
現状を変えたくない現場の長老、理解しない、言うだけの上司、社長

そうは言っても、これからはAIと付き合っていくことになる。その基本は、自社内のノウハウの継承にある。
5. 日本製造業は勝てるのか、その勝ち筋は?
日本製造業の勝ち筋は明確である。それは、材料・素形材・製品開発が一体となった「製造立国」の実現である。なかでも、日本のものづくりの根幹を支える素形材産業の強化が不可欠だ。デジタル化やAIは目的ではなく、製造現場の競争力を高めるための手段である。まず守るべきは、日本の強みである“素形材は国家なり”という考え方である。

日本製造業は、失われた30年の間、耐えに耐えてきた。これからは成長へ舵を切る時代だ。
政府、民間、一体となって進めるべし。

製造業にゲームチェンジなどない。あくまでも愚直に技術開発・要素技術開発を積み上げて、ものづくりノウハウを継承していくことが大事だ。
一方で、日本の製造業に戦略家がいない。国を強くする戦略、製造立国日本の戦略的思考を重ねるべきである。国力、製造力、開発力を磨こうではないか。いま一度、変えてはならない日本のモノづくり文化、変えていかなければいけない製造の仕組み、利益だけ考えてはいけない。今一度、顧客本位のこだわり品質の精神、それを極めることが勝ち筋の一つとなる。
今の日本の製造業経営者はすぐに答えと効果を求めてしまう悪い癖がある。仕事にも趣味、嗜好、遊びがあってもよいのではないか。無駄を許容する肝要な経営者であってほしい。私の言う開発立国とはそういう製造の開発立国だ、大和魂
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