第6回 伝承とデジタル電承 その1
- 1月15日
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デジタル時代の開発とは?
電承とデジタル人材の育成、デジタルカイゼン・デジタルツイン時代
1. 日本流伝承の生い立ち
戦後80年、日本は欧米などから多くのことを学び、日本の伝統的なものづくり文化と融合させ、独自の進化を遂げてきた。一つは民芸工芸品や日本刀、宮大工、左官、農業、漁業など職人技を磨いて今でもクールジャパンの大きなビジネスとして継承されている。
一方、工業、商業などはどちらかというと欧米のまねごとから始まり、職人的こだわりの品質や次工程はお客様、使う人の立場に立った思いやり文化を継承しながら昇華してきた。一時、自動車などJAPAN as No.1と称され、国内外で高い評価を受けた。私のUS赴任の時代だった。
その後、リーマンショック、バブル崩壊で失われた30年を苦悩しながら日本製造業は生き延びてきた。日本企業は100年、300年とのれんを守り続ける多くの老舗企業もあり、オイルショックなど、どんな苦難も乗り越える強い信念と経営力がある。その根本は日本の文化力にあり、どこの国にもない大和文化が潮流にあることをいつの時代も決して忘れてはいけない。1億4000年前の縄文時代から現代まで、島国としての和の文化が醸成され、その伝承が今でも日本人のDNAに刻まれている。型の起源は弥生時代にまでさかのぼる。人々は砂の中に木型で形を作り、溶かした銅を流し込むことで、剣や銅鐸などを製作していた。これが金型技術の原点である。
今はダイカスト鋳造など機械化されているが、今でも鋳巣やワレなどが鋳造欠陥の原因が解明されていなく、技術者がCAEも駆使しAI化できないか取り組んでいる。切削工具は石器時代の石槍や石斧が原点である。

切削工具は、石器時代の石槍や石斧が原点である。私の趣味の一つに、石器や土器を集めることがある。小学生のころ、家の田んぼがあった山の上の高原で、悪ガキ仲間と一緒に地面を掘り、石器や土器のかけらを見つけては楽しんでいた。

日本は噴火と地震、津波等、災害と向き合ってきた長い歴史がある。その都度、この島国から逃げることなく、みんなで協力し、生活を守る“おもんばかり精神”で対策を継承しながら乗り越えてきた。日本人にはその大和DNAが存在する。私にも脈々と大和民族の文化遺伝子が受け継がれているのだろう。
【格言】日本の強みは大和民族DNAと、逆境を“皆ではぐくむ文化”にある。それが日本の伝承力だ。
ものづくりにおいては、中国が世界の工場としてこの10年大きな進化を遂げ、日米欧の先端企業が進出し、そこから得られた知識・技能を習得し、“日本を超えた製品“を作れると豪語し始めた。特に安い人件費、労働力、過剰なまでの爆発的な生産力、それにソフトウェア・AIなど、世界最先端の技術も独自開発して、国際社会へ挑戦状をたたきつけ、日本の脅威ともなっている。
では、これからの日本のものづくり、特に日本の製造業の真の勝ち筋はどこにあるのだろうか。それを考えてみたい。先ずは、ノウハウ・技術伝承の視点から考察する。
1) 伝承の良い点と弱点、電承の良い点と弱点
日本のものづくりノウハウの伝承は、主にOJTで体と言葉で受け継がれてきた。日本刀つくりは棟梁の刀鍛冶が弟子に何年もかけて刀同様、人材も鍛え育てる風習がある。その徒弟制度的ノウハウ伝承が今の製造の現場でも主流だ。真の技術とノウハウの刷り込みには最適な手法であるが、経験則ノウハウゆえ、エビデンスもなく一子相伝的に機密が守られながら継承された。焼き入れの湯の温度を見ようと弟子が手を窯に突っ込んだ瞬間、腕を切り落とされた逸話は有名だ。なぜなら短絡的に経験値を得ても理屈がわからないと本物にならないからだ。
現代のものづくりは大量生産時代に入り、一品料理の製造とは異なり、大量生産時代で、同じ品質(Q)、決まったコスト(C)納期(D)で製造する必要があり、総合的な品質管理やTQC統計技法、ISO国際的品質規格IATF等が国際的に定められている。その基本はエビデンス化されたルールで誰でも同じ決まった作業で一定品質を担保する時代に変化してきた。さらに紙エビデンスからデジタルによる情報管理・業務フロー管理の時代へと進化している。
小職は“電承”という、現代のものづくり情報伝達、ノウハウ伝承をデジタルで行う手法を発表した。電承される暗黙知ノウハウを標準化し、デジタル化した形式知を“ナレッジ”と定義して大和伝承を引き継ぐ手法だ。電承すべきナレッジには、作業マニュアル、規定、製造設備の設定条件レシピ、センサ・センシングデータの安定品質の範囲を規定する閾値、QC工程表設計から製造、品質管理までの規定と判断基準、知見、失敗事例、過去トラ、ノウハウシート等があり、デジタル製造における基本要件だ。
弱点は、それらノウハウは人の頭の中に経験知として蓄積されており、ナレッジ化することが困難なことだ。
日本の製造現場は今でも作業者ノウハウに頼った製造が主流であり、人材難の今、それを打開するため、様々な手法やデジタル活用・AIによるナレッジ支援等の試みが進行中だ。
野中幾次郎先生は、暗黙知と形式知というまとめ方をした。東大の藤本隆宏先生は、ものづくり経営学で部品点数が多く複雑化する現代の製品の設計情報への価値を吹き込む概念を説いた。
【格言】温故知新:昔の知識や経験を繰り返し研究し、そこから新しい知識や見解、道理を見出す
今まさに、徒弟制度的伝承から大和DNAを引き継ぐデジタル伝承と融合した新たなものづくり開発・ノウハウ創出という新たなステージに突入している。
当社では、この考え方を「電承」のアプローチ手法として Smart Engineering と呼び、現場で実際に活用できる形にするため、「ナレッジ電承」システム を開発した。
2. 開発したナレッジ電承:アルプスアルパイン様と取り組んだ同じ失敗を繰り返えさない仕組み
1) 従来のノウハウシステムとナレッジ電承の目的とシステム紹介
2000年初頭のインクス時代に型Naviの開発とシステム化を行った。背景として、アルバイト中心で金型設計・製造を行うためには、ベテラン技術者が持つ型設計ノウハウ、CAMノウハウ、加工ノウハウ、型組み・成形ノウハウといったすべての工程を標準化し、システム化しなければ運営が成り立たなかったからだ。
東京のオペラシテイ本社に設計・CAM要員アルバイト15名ほど、KI(蒲田金型第一工場)はアルバイト20名ほどで携帯電話金型の設計・製造に取り組んだ。当時は10日間で金型・成型品を作る画期的な工場として受注が増えた。その時に構築したのが型Naviだ。
受注が増え、そのKI工場の他にK2工場を新設し、型Naviに磨きをかけ、人件費“0”を目指した“零工場”へと発展した。それからトヨタ様、HONDA様など有名な企業と短納期金型に取り組んだ。
リーマンショック後の2010年KMCを設立したのだが、アルプス様の江尻理事からお祝いとお願いを託された。
“うちの設計は同じ失敗を繰り返すんだよね、インクス時代の設計Naviもよいのだが、その対策にはならない。何か良い案はないかな”との管理者の嘆きを飲みながら聞いた
それから2000件に及ぶ膨大な過去トラと共に関連資料の調査を行ったが、実に設計の50%が手戻り作業、分類では“情報伝達ミス”として記録されていた。知らない、聞いていない、情報が古い、対策がない、結果がない。
早速、Smart Engineering手法を用いて手戻り・情報の棚卸しを行い、言葉の定義、未記入の対策と結果を加えたナレッジ化を実施した。さて、どんなシステムが良いか、考えた末、コミュニケーションに問題があることに気が付いた。部門と部門、人と人、会社と会社、の壁が存在し、指摘事項やメールだけでは意思が伝わらない、会話の中にこそ本当のノウハウ・知見が存在することに行きついた。ただ、残念ながら技術者の頭の中にしか存在しないものが殆どだ。過去トラや基準、標準、チェック、記録だけのPDMシステムでは解決しないことも分かった。

そこで、メールや人の指摘、検図に変わる“人と人をつなぐ“コミュニケーション機能を提案した。これは単なるホワイトボード機能ではない。各部門、知見者、購買、サプライヤーまで含めた意見・指摘・検図等を言葉にノウハウを付加して若手でも検索しやすい機能にした。開発管理上は、各部署からの“指摘事項と対策結果”もナレッジ化し、開発が終わってからのまとめではなく、指摘事項がシステムでナレッジ化される画期的なシステムだ(特許)。
これなら新しい製品、材料、設備の進化に伴う新たなノウハウ・知見も電承システムでナレッジとして蓄積・DB化できる。勿論、指摘事項の分類や件数管理、回答ノウハウや検図時のNGもその理屈がデジタル化できる。量産出図まで指摘事項が解消されていないと手配できない、承認者の可否判断も理由が残るようなシステムとして開発した。
メールや会議などでは得られない生きたノウハウが伝承されることになり、必然的に手戻りがなくなり、同じ失敗を繰り返さないシステムとして、若手の人材育成としても進化し続けている。10年以上アルプスアルパイン様の設計システムとして国内外の拠点で開発業務フローの中で運用され続けている。
2)開発IoT:デジタル電承はネットワーク開発システムとして製造現場や設備、センサともつながる
最近の設計者は現場を知らない、設備や不具合や部品不良、金型すら知らない若手設計者が増え、このままだと設計品質が保てないとベテラン技術者は嘆く。一方で若手エンジニアは、ロートルはCADやCAE、PC、AIソフトなど使いこなせない。管理者は、開発期間の短縮要望で即戦力化を図り、若手にまともな現場教育の機会を与えていない。失敗や設計変更を恐れ、熟練のベテラン頼りの開発体制から脱却できていない。

ナレッジ電承は、金型IoTや設備IoT、金型・設備のセンサ情報、測定データと連動し、設計・生産技術部門と製造現場をつなぐ仕組みとしても開発している。これで設計が忙しく、現場に行けなくても具体的な製造情報が手に入った。勿論、現場で不良対策の実態も把握できるようになった。
【格言】過去トラは古い、今起きている不良・不具合が知りたい、それを“現トラ”といい、製造情報連携が実現した
アルプス様では、KMC以外のナレッジシステムとも比較検討を行った結果、コミュニケーション機能などにおいて差別化が図られている点、またKMCであれば個別の要望も柔軟に取り込める点が評価され、「全社的なナレッジ電承」として本システムの採用に踏み切ったとのことだった(システム構築担当:部品技術部 佐野氏)。
部品見積もり機能や、型費見積もり機能、サプライヤーとの連携機能で、トライ結果をタブレットで記録、チェックしてもらい、立ち合いに行けなくでも“デジタルトライ“ができるようにした。
他に開発管理機能として、指摘事項管理機能、DR管理機能、検図機能、生産技術要件チェック機能など多くのデジタル開発に必要な便利機能も充実させている。
3年経過して、アルプス様とアルパイン様が合併した最初の年の社長表彰に匹敵する金賞をいただいた。
目標の同じ失敗を繰り返さないシステムは、実際の開発テーマの実践結果で“指摘事項が68%削減”された。すなわち、手戻りが約7割削減され、開発工数の実質削減、設計変更費用の削減など大きな効果が得られた。

ナレッジ電承システムは“開発プラットフォーム”としてあらゆる開発・製造情報と連携される。
これがKMCが提案する大和文化をデジタルで継承する和の技術電承:デジタルコミュニケーションボードだ。
【提言】これからの開発の基幹システム(要件定義、CAE、設計、生技、金型、製造、検査)
開発IoT:開発電子カルテとは、開発の信頼性と設計品質を担保し、持続的成長を促す“開発プラットフォーム”
【格言】設計の1(寸法)は現場の1000(情報)に影響を与える。これが、私が習った昭和の教えだ。
【コミュニケーションの指針・重要性】
メールなどでの電子文章だけでは伝わらない、データと共に会話すべし、仲間で飲むべし、遊ぶべし
年を取ると、人間一人では何もできないことに気付く。デジタル社会における友達作りはSNSの世界で広がっている。それもそれで良し。人類は約70億人にのぼり、SNSを使えば世界中の人とつながることができる。しかしながら、真の友人や仕事仲間との信頼関係づくり、課題解決や新製品開発においては、やはり直接的で深いコミュニケーションが何より重要であると実感する日々である。
飲み会も減った(残念)
第6回 伝承とデジタル電承 その2へ続く
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