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第3回 デジタル製造の基本はセンサ・センシングから始まる

  • mnakata85
  • 11月4日
  • 読了時間: 12分

更新日:11月13日

 デジタル製造の基本は、開発から生技、金型そして製造、検査に至るまでの情報を正確に伝達することにある。今までの製造は昭和から令和にいたるまで古来の徒弟制度的なものづくり文化を踏襲した口頭伝達文化といっても過言ではない。人口の増加は望めず、2050年には1億人を下回り、働く職場は30%ほど人がいなくなることは明白であり、益々、自動化と効率化による労働生産性の向上を図る必要がある。

 答えは口頭からデジタル情報伝達への転換にあり、そのツールがデジタル情報だ。言うは易し、そのデジタル製造はスタート・模索段階にある。いや、これから数十年にわたりものづくり文化革命の時代に入る。


1. データを“取る、見る、分析、生かす”デジタル製造の基本的な取り組み


 デジタル情報の取り組みは、

1) データを取る・・設計ノウハウ、試作・製造における・生産準備設計/設備ライン設計・金型設計/製造・トライ、量産・検査・品証に至るまで全ての開発・製造情報を取る事

 ⇒各種センサ・M2Mセンシング、現場タブレット/PC、物品QR/RFID

2) データを見る・・設備/金型稼働情報・製造条件設定情報・4M情報・検査情報のデータ表示

 ⇒警告灯・PC/タブレット・パネル・監視盤・コクピット 

3) データを分析・・個別センサデータ分析・異常値・傾向値・長期生産データ・統計処理・品証

 ⇒Σ軍師マルチデータ分析・不良との因果関係・AI分析(パレート分析) 

4) データを生かす・・予知/予防(不良/不具合の未然防止)・設備FB(停止/警告)・ノウハウ伝承

 ⇒ナレッジ電承(デジタルノウハウ伝承)・デジタル製造教育


 その中心に電承データベースが存在し、人・機械・工場・国を跨いだデジタル製造における情報が共有されるデジタル製造の仕組みだ。俗にいうエンジニアリングチェーンとサプライチェーンその全てのプロセスに情報があり共有され伝達されることで目的の「利益」を生み出すバリューチェーンとなる


デジタル製造におけるデジタルPDCAと開発・製造バリューチェーン
デジタル製造におけるデジタルPDCAと開発・製造バリューチェーン

 それでは、いかにその情報をデジタル製造フローとして“単位化(製造の原単位)”か、その手法の一例を示す。先ずは、社内にはびこる帳票を整理してみるとよい。

 金型メーカで受注段階から出荷までの帳票を調査したら200枚ほどが業務帳票で100枚ほどが現場のチェックシートから日報、機械日報などが運用されていた。記入だけで80時間工数、その承認など含めると1型当たり100時間、約50万円を費やしていた。

 その記入をさらに調査すると約30%が重複記入であり、デジタル化、データベース化し共有すると削減が可能と判明した。現場には当たり前の無駄が多く存在している


デジタル製造に向けた情報設計図
デジタル製造に向けた情報設計図

 ポイントは、1型、1製品に必要な情報を帳票から棚卸し、それを「プロセス情報原単位」としてデジタル情報の単位化することである。システム化はその情報の設計図があれば簡単だ。どれだけ無駄な工数を費やしているかびっくりする事だろう。単に、帳票をデジタル化・見える化ツール導入だけでは全く生かされない“綺麗な情報(帳票)“となってしまっていることに気が付くべきである。

 デジタル製造の目的は“利益”を生む事であり、製造現場にはいろいろな見えない無駄が存在していることに目を向けてほしい。「利益は現場が生む」製造現場はその根幹をなす“キャッシュマシン“である



2.労働生産性と忘れてはならない“デジタルサプライチェーン”


1)労働生産性からみる日本の製造力とデジタル製造

世界から見ると日本の労働生産性が低いとよく指摘を受ける。政府もデジタル化や自動化、ロボット導入など補助金等で支援に躍起だ。政府の資料もみても世界26位と低迷している。また、中小企業と大企業間でも格差が大きい。耳の痛い話だ。


剣道部所属だった高校時代の秋声
労働生産性調査

労働生産には、一人当たりの生産高、一人当たりの利益の二つの視点がある。

①一人当たりの生産高=物理的労働生産性

 従業員一人当たりの物理的労働生産性=生産量÷労働量(労働人数×労働時間)

②一人当たりの利益=付加価値労働生産性

 =付加価値労働生産性従業員一人当たりの付加価値労働生産性=付加価値額(売上高)÷労働人数(労働人数×労働時間)

 付加価値額=「経常利益」+「金融費用」+「人件費」+「減価償却費」+「賃借料」+「租税公課」

 

 果たして日本はそれほど製造業として悪いのだろうか。結局は「利益」で議論すべきで、例えば自動車1台当たりの利益でみると決して中国や欧米には劣っていない。欧米の製造業や中国などの製造の特色は“内製率の高さ”にあり、従って労働生産性も高く出る傾向にある。

 

2)欧米・中国などと異なる日本型ものづくり:サプライチェーン/中小企業

日本は、例えば内製率は25~35%くらいが平均的な数値である。それは、受注の波に応じたフレキシブルな生産、特に多品種小ロット型できめ細かい製品開発を得意としており、内製率を高めると需要に応じた生産調整を行うとき余剰設備となり「無駄な設備・稼働率のばらつき」が生じてしまう。

 したがって日本の製造業は、中小企業とのサプライチェーン網を構築し、そのリスクを分散している。しかしながら、デジタル化を欧米中国に遅れているのは確かで、デジタル製造を手の内化できたら今より相当大きな利益を生む「のりしろ」を持っているといえる。したがって、サプライチェーンの維持・進化は日本の製造業の大きな武器と考える。

 また、日本企業は、雇用を大事にし、和を尊ぶ社会・企業文化であり、新入社員から人を育てるという意味ではデジタル人材・教育が整えば決して欧米中国には負けないと考える

 

【提言:日本流の「デジタル製造」を確立すべきである】

 欧米、中国などBYDに見られるように高内製率・直行率を指向するものづくり、人をツールとして雇用する欧米型経営、日本はピラミッド型のリスク分散可能なサプライチェーン方式、人を大事に育てる社会風土を継承し、日本流デジタル製造で、JAPAN  as  No,1を目指すことを提案する。



3.デジタル製造における技術伝承と人材育成の重要性


1) 製造現場の技術伝承の実態

 一方で、いくらデジタル製造と言っても人材育成を怠ってはいけない。技術とは伝承され蓄積されていくことで昇華していくものであり、我々はそれを“デジタルナレッジ(知識)”と定義している。日本の製造業の強みは技術伝承を口頭であれ、しっかり積み上げて継承しているものづくり文化にある。

 欧米や中国では“下30%は切るという経営であり、従業員も覚えたら少しでも給料の高い会社に転職して渡り歩く風土が特色であり、技術が継承されにくい欠点がある。適切なスキルの高い人材を高給で雇えばよいと考えている社会だ。したがって、新卒の就職率は低く、自己責任でのスキルを身につけなければ就職できない。

 また、“Sierや自称製造コンサルの口車に乗った希薄なデジタル化推進は墓穴を掘る。投資判断には経営の信念が問われる。当面は、作業者とデジタル機器・設備・センサとの対話で製造されることが続く。なぜなら工場内には10年から20年前の設備が多く、古いデジタル化されていない設備が主体だからだ。

 では、作業者や生産技術者の業務を紐解いてみよう。作業現場では、良品を製造することが求められるが、残念ながら金型も設備も材料も、そして工場の温湿度など作業者には作業環境の変化への対応と条件変更などの判断が求められる

 そのため、作業者の五感が頼りとなり作業者任せとなってしまう。生産技術者も変化する製造条件や製品に対し、様々なセンサや設備条件、カイゼンが求められ、安定生産を目指した製造設備設計や工程設計、生準、製造プロセスを考えるところに生技の経験とノウハウが必要になり、属人的な継承となっているのが現状であると理解する必要がある。 

 

2)職人の五感をいかにセンシングし伝承するか:無線センサと判断のデジタル化

 五感はセンサでデジタル化できることは周知の事実であり、多くの企業が“そんなの20~30年前からやっているよ”と生産技術者からかえってくる。では、“なぜ普及しないのか、現場で使われていないのか“と聞くと「効果が出ないんだよ、結局、人間の方が効率的だ」と言われる。危機感のない管理者には全く残念だ。センサも進化は日進月歩、判断も正確なデータ可能だ、無線化も進み、設備保全にも優しい時代だ。


五感に替わるセンサ
五感に替わるセンサ

 私が見る限り、デジタル製造はすぐに答えを求めすぎて継続的なデータ取得と分析が必要だ。また、データからの設備停止や警告など歯止めができておらず野放しにしているだけと感じる。不良や不具合は突発で時々発生するものであり、持続的な運用と業務の一部として運用しなければ定着しない。

 また、センサや評価・分析システムはセンサからの警告・データFBで設備停止なども可能なM2Mシステムとして進化している。もう一歩踏み込んでトライ・運用すれば今なら解決できる課題だ。


ものづくり道場のデジタル化・TOPと管理職のDX教育の在り方
ものづくり道場のデジタル化・TOPと管理職のDX教育の在り方

 

【余談1】 職人技の金型をアルバイトで設計製造:デジタル製造への挑戦

 前職のインクス時代、金型事業を始めるときに三井金属時代の大先輩「石井さん」に金型の磨きや、型合わせ等、職人技の伝授をうけた。石井さんの型とスライドの合わせは経験・五感の「しっくり」を2ミクロン以内という数値に置きなおし、高精度切削技術と自動化システムでアルバイトでもできるようにした。1年後、石井さんは「もう教えることはないよ」と言って会社を去った。

 

【余談2】 HONDAさんのエンジン木型職人が一番喜んだシリンダブロックの光造形試作

 3次元SOLIDデータでシリンダブロックと内部の空間モデルを光造形で製作した時、一番喜んだのは試作部のベテラン木型職人だった。設計者は3mの2次元図面を書くが、その空間は25㎜単位の断面図であり、誰も形状は認識できなかった。それを木型職人が空間木型(中子モデル)を作って初めて認識する。

「これで、俺の役割も終わったな」と笑顔で感謝された。エンジン性能が格段にアップしたのは言うまでもない。

              

 【余談3】 現場職人が私ももうじき60歳、上にいくら言っても理解してくれないので疲れた、もう俺辞めて新しい人生をスタートしたい。自動車メーカの製造工場、エンジンからインパネ、Bodyアウターなど金型から製造までしている職場の熟練作業者の切実な言葉だった。あと5年で熟練の知識をデジタルに移行と思って相談していたが、もう現場は崩壊が始まっていた。時間はそれほどない。

 

 製造現場の困りごと事は現場で起きている。職人に頼り切った現場にしたのは誰だ。“上は、見にも来ない、聞いてくれない、言っても理解できない、投資をしない、すぐに効果だけを求めてくる”と嘆く。本当に困ったものだ。これは、ものづくりを忘れた管理者のデジタル信望の弊害か。

 

【デジタル製造の目指すところ:日本ものづくり文化の継承、自動化と人材育成は両輪であるべき】



4.デジタル製造の目指す姿、デジタル製造に向けた情報戦略図(設計図)の描き方


1) デジタルデジタル製造に向けた情報戦略図(設計図)

 日本人は個々の取り組みは得意だが、アーキテクチャー的な設計は苦手である。しかしながら、デジタル製造に向けて情報戦略策定は避けては通れない。論文的にいけばオブストラクトを書いてみる事である。従来・・課題・・他社/前例・・目的・・現状・・取り組みの概要、等エビデンスにすればよい

 また、各部署や仲間、サプライヤーの意見を取り入れるとよい。そして、システムと人材育成の両面での取り組みをイメージするとよい。勿論、経営陣の投資判断を仰ぐ必要があるので、原価低減投資と成長戦略投資に分けて議論するとよい。

 

デジタル製造に向けた戦略策定
デジタル製造に向けた戦略策定

【A3一枚にまとめる】 自動車メーカでは、よくA3一枚にまとめる文化がある。

HONDAさんの5原則シートやトヨタさんの「ボード一枚」、スズキさんのA3一枚戦略図などがそれにあたる。ぐじゃぐじゃ書かれても時間のない役員には「1枚で、一言」で言う、質疑含め15分以内の提案が不文律だ。

 

2)    デジタル製造に向けたシステム構成図:データを取る、見る、分析、生かす

 製造現場には樹脂、プレス、ダイカスト、機械加工等の部品製造設備があり、これらの製造にかかわる共通した「製造情報プラットフォーム」が必要だ。従来、EXCELなどで内製した製造・業務システムも見受けられるが、担当者の移動などでシステムバージョンアップができなくなる事例が見受けられる。

 この手のシステムは設備、金型、材料、環境情報や制御技術、ネットワーク、通信技術など多岐にわたる専門知識が必要になり、残念ながら製造会社では困難だ。最近は、パッケージ化されたソフト・システム・メーカを選定、採用するメーカが殆どだ。勿論、独自の要望に応えるカスタマイズ力と保守・継続性が求められる。

 

デジタル製造システムの概要:IoT・M2M・センサ・センシングシステム
デジタル製造システムの概要:IoT・M2M・センサ・センシングシステム

 情報システム部門が予算を握っていた時代もあった。しかしながら、製造現場のデジタル化は製造部門が責任をもって「デジタル製造システム」を構想すべきだ。なぜなら、解決すべき課題は、現場にあるからだ。

導入、構築だけに重きを置いた過去・現在のデジタル化推進は「利益」という効果を生まない。

 

【経営者・管理者に提言】

デジタルの見える化は必要だが、現場へ足を運び「見る・聞く」は必須だ。よく、よその事例は?効果は?運用は?と聞かれるが、他社事例と自分の会社は製品も工場環境も設備も働く人もみな違い、文化も違う。先ずは自分の頭で考えて、エビデンス化することが肝要だ。それには自ら勉強し、理解することだ

 

【コニカミノルタさんの事例】

元常務取締役、生産本部長 浅井慎吾氏の2017年9月の日本ものづくりワールドでの講演資料である。自らから考え、勉強され、自ら生産技術・生産部門を牽引し、更にサプライヤーと共に共通システム「M-Karte」を構築しグローバルサプライヤーチェーン製造体制を構築した。尊敬する友人でもある。M-Karteは現在の「デジタル製造:電承システム」の基本となっている画期的なIoTシステムである。書籍「IoT/M2M革命(日経)」でも紹介している。


コニカミノルタにおける、IoT時代の"新たなものづくり"
コニカミノルタにおける、IoT時代の"新たなものづくり"

 

 

次回は第4回 製造デジタルデータの生かし方

 
 
 

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