第2回 なぜ、日本ではデジタル製造が普及しないのか
- mnakata85
- 8月24日
- 読了時間: 9分
更新日:9月16日
1.製造現場を支えてきたアナログ世代
デジタルの反対はアナログだ。特に製造の世界においては経験や五感と言われる製造ノウハウがアナログ的伝承となり製造現場を今も支えている。
・ちょっと匂うな 異音がする 振動がある 油が切れたのでは?
・今日は温度が高いな、湿度もたかい、不良が出る 回転数を落としてみるか!
・ヒケが出始めた シルバーもでる VP切り替えを変えて成形条件もいじってみるか!
・型温が上がっている 金型冷却がおちているかな 金型の冷却パッキンをしらべてみろ!
等々、現場の生産作業者は日々、製造条件、金型・設備変動、環境温湿度と格闘している。
ところで、最近は人手不足といわれ、どこの企業も対策に躍起だ。2025年現在の日本の人口分布を下図に示す。人口1億2380万人。60歳以上は、この5年で第一線の製造現場から退職する。その予備軍60歳から65歳がいわゆるベテラン人材だ。彼らの経験・ノウハウをデジタル化する最後のチャンスだ。2030年には1億2000万人とされ、労働人口は約300万人減少すると予測されている。
あと5年がアナログ人材からデジタル製造に移行する最大のチャンスといえる。
あと5年、、、、それほど時間はない。私も68歳、気持ちだけ焦る、、、早く製造現場のセンサ、センシング、IoTを開発したい、、、
実は、先の参院選で参政党への投票分布を見ると40、50代が一番投票している。調査では従来の新聞などのメデイアから動画・SNSサイトを参考にして投票していた。この60歳がデジタルとアナログの分岐点となっているようだ。そういえば、KMCの金型IoTもクラウドサービスのサブスク契約が買い取りを上回っている。コロナ前はオンプレが主体あったが、もう海外拠点に日本人はいけない。時代は変わった。
製造業の部長級以下はNET社会なのだろう。私も子供にはゲームで遊ぶなと叱っていたが、時代は大きくデジタル社会に移行しており、生成AIも普通に市民生活や大学にも浸透し始めている。私を含めた昭和の時代は大学でもコンピュータといえば最先端の紙テープパンチャー、計算尺とカシオの卓上電卓で64関数など性能を自慢し、ばね計算などのプログラミングをしていた。そんな世代が真のデジタル製造社会を創造し、投資判断ができるのだろうか。老いては子に従えかな。

そして、製造現場も女性の活用が救いの手となる事は間違いない。女性の活用には、曖昧でもいい加減でも仕事を受けて立つ男性気質の製造から、決まったやり方、特に標準を基準にきっちり作業をする女性の気質の違いを理解する必要がある。きれいな職場、作業環境、5Sは必須である。
新潟の取引先のプレス部品・金型製造の山口製作所・山口社長は採用難だった職場で最初に手掛けたのが、女性トイレと男性トイレの分離、5S、そして金型設計・CAM・製造標準の策定とDB化、PCで閲覧可能な業務
への変更、プレス機、金型、MCへのセンサ導入、業務の見える化、パネル設置と大胆に改革を断行した。
“佐藤さん、これをやっていなかったら仮に何人採用しても会社はむしろ衰退していた。見てください、今では地元の女性が大活躍の会社に生まれ変われて、新規製品・アモルファスなど研究もできるようになった”。

2.作業者の五感に替わるセンサ・センシングシステムと判断基準
お客様の工場には、15年、20年、たまに30年前の加工機がずらっと並んでいる。センサはその古い機械に設置できるようにマグネット式の無線センサが求められる。
下図に当社のMC用センサとセンシングシステム「主軸モニタリン」の事例を示す。振動センサから得られるデータは、ピーク値・平均値・実効値・CF値(クレストファクター)に加え、MCなどの固有振動値を分析するFFT:周波数表示もある。これが作業者の5感にかわるデジタル監視である。
問題は、現場作業者がその生データを見たことがない、どう判断すればよいのか、それでなくてもMCには最近、いろんなセンサや計器だらけで始業点検に5~10分かかり、そこに新たなセンサを持ち込まれると作業時間が少なくなり、センサの使い方(運用知識)も分からないため、現場では不評だ。いまひとつ具体的な効果も示せていない。Smart工場を推進するため、センサ導入を推進したい生産技術・管理者、DX真理教の経営陣とのギャップが製造現場のDX化が進まない一つの原因である。
もう一つの視点は、現場作業者が判断していた「経験値」による総合的な判断基準にある。システム上は各データに上限、下減の閾値管理ができるようになっているが、誰がその閾値を決定するのか、どう基準化すればよいか、複合的なセンサデータの評価は、と生産技術者にも設定ができない。それが経験値という現場に蓄積されたノウハウにあり、作業者は複合的に状況を判断し、良品を作る条件を見出している。

工場で一番多い設備故障は、モータとそのベアリングではないだろか。その保全、故障予知システムができればDXの目的の一つである“生産を止めない”仕組みに近づく。
栃木県の㈱東興機販様は、機械加工の治工具などを小ロットで生産する30人に満たない典型的な中小企業でるが、本業の機械販売に加え、加工部門の強化と新たなビジネス展開で「モノとトコ」の軸を作りたいという渡邉社長の危機感と強い意志で「Mini Smart FACTOY」の構築に着手した。ショールームとしての活用を推進している。

3.生産を止めない:設備保全を考える
あるトヨタ系のTier1役員から、“佐藤さん保全・点検作業何とかならんかいね、日常点検で1台当たり10分おまけに、その作業履歴は”紙の手書き日常点検表“うちは1000台の加工機がある、いくら損していると思う?
166時間、×賃率5000円=83万円/日だよ。年間2億1900万円!佐藤さんのところの無線センサで自動点検をリモート診断できないかね?活用されない点検実績表をデジタル化して故障予防ができたら最高だね!“
そこから無線センサによる日常点検システムの構築に入った。

センサ、センシングの導入効果は明確だ。なのに何故導入をためらうのか。
超製造研究会:ものづくり太朗先生&山田参院議員(前デジタル大臣政務官)で山田先生は、欧米との差は経営陣の決断力の違い。欧米の役員は改革ができないと首、改革で効果が出ないと首、どちらにしても退路はない。それに比べ日本の経営陣は全体責任、首になることは通常はない。
果たしてどうなのか。日本流の経営の歴史、文化、積み上げが欧米流の経営手法とは異なる。どちらが勝つか、“ものづくり道”を極めた方が勝つ。“ものづくりは人のため、世の中に役に立つ”を忘れてはいけない。
4.大和民族のものづくり・製造に対する背景とデジタル化の考え方
デジタル化への不信が製造現場に根強いのも確かである。戦後・昭和の時代、徒弟制度的な人材育成、技術継承が根本にあり、個人より集団、次工程はお客様的なおもいやり精神、そして何よりも品質に対するこだわり。時には利益を考えずお客様のことを考え、“喜ばれる製品・品質に”が利益に勝ることもある。そのために年功序列的会社運営、カイゼンは職場のみんなで考えるグループ活動。先輩を慮る体質。そして何よりも経営者は株主よりも従業員を大事にする。欧米では考えられない。
これが、大和民族の経営、ものづくりの基本にあった。昭和の時代、私もその一人なのかもしれない
【余談】
前職はインクスと言い、5人で始めたベンチャー企業である。創業2年目、1992年、大手製鋼メーカから製造された鋼材の検査装置を依頼された。鋼材のワレ部位を画像処理し、その傷に磁粉を吹きかけ、不良品をはじき出す画期的な無人検査システムである。試作はうまくいき、東北の工場に検査装置を設置し運用が始まった。
コンピュータは基板が何層にもなり、ワイヤボンデングで接続した。CCDカメラは当時最新、判定にはマイコンを搭載し、ファームウェアを実装した。
うまくいったが、時々誤動作をし、不良品を逃してしまう。何億円も生産する最新鋭の工場ではあってはならない。そして開発担当の高瀬が人質としてラインに張り付くことになった。
半年たち、冬になりこれ以上は無理と判断し、夜の電話で“命まではとられないよ“椅子を蹴飛ばしてでも帰ってこいと指示した。次の日、先方の責任者から高瀬さんの様子がおかしい、と連絡があり、何をしたのですか?と詰め寄った。そして、高瀬は帰り、顧客との現状認識と対策の大会議が始まった。
私から、原因は基板・ワイヤへのノイズと説明、対策にはワイヤ結線ではなくPCBとして再製作が必要と説明したが、納得されない。誰も原因はわからず、証明もできない。会議は10時間を超え、別室で、役員と関係者だけの打ち合わせが行われた。先方の役員がこぶしを振り上げ、テーブルをたたく動作に入った瞬間、私は負けじと先にテーブルをたたいた。
“M役員、私の後ろに社員7名とその家族30名がいる。ここで負けたら会社はつぶれ、一族郎党生きていけない”シーンとなって、散会となった。帰りの電車もなく、役員車で自宅まで送ってくれた。車の中でお互いの立場を理解し合い、結局、これ以上、お互いに追加投資はできないため、現状のままで運用を続けることになった。
その時の高瀬は、現在M2M・センサ開発の責任者である。
何故、そんな無茶な仕事を引き受けたのか。HONDAにエンジニアとして三井金属から派遣されていた時、競合の会社は“できません電機”と揶揄され、当時の三井金属の開発チームは“できないといわない”が合言葉だった。今でもいろいろな研究開発テーマの依頼を受ける。CTOの安部が果敢に挑戦している。
結局、私は昭和の経営者なのだろう。
その5 KMCのAI活用
事務部門に“横浜市の修繕補助金の問い合わせ先調べてよ”事業本部長公認会計士の市川が、佐藤さん、簡単ですよ。生成AIなら一瞬でわかりますよ。とさっそくググって電話番号を教えてくれた。市川が、社内の事務処理や営業改革に使ってみてはと進言していた。私は、その電話にかけてみたら。猫の相談所だった(笑い)。
ほら、AIは信用しちゃいけないよ。との笑い話しとなった。現在は、ソフト開発部門が成形AIを活用している。退職した開発者のコード分析や、カスタマイズ案件開発、不具合事象の調査に大いに役立っている
商品開発では、成形不具合の影響因子分析にAIソフトのパレート分析をΣ軍師Ⅱに組み込んだ「成形AI」を開発し、販売を行っている。詳細は第3回で紹介する。
【結言】
なぜ日本ではデジタル製造が普及しないのか。欧米のDX・AIは日本の製造経営になじまないからだ。
ではどうするか。
センサはあくまでも製造のアシスタントに過ぎない。熟練工にはかなわない。芸術品なら熟練工の勝ち、量産はデジタル製造の勝ち。過去の多能工の時代からロボットや自動機によるシステム製造の時代にセンサ・デジタル技術は不可欠な設備と考える。したがって投資は必要。投資には原価低減投資と戦略投資がある。すべてが投資効果では計り切れない。
デジタル伝承・人材育成と共に製造DXは始まったばかり。やってみなければ、新たなデジタル知見は生まれない。いつまでに? 5年のうちに。もう始めないと間に合わない
誰と?若いコンピュータ世代の人たちと。
何を?
もがきながら、勇気をもって一緒に挑戦し、つくり上げよう“日本版製造DX”
次回は
番外編その1 三井金属時代からインクス設立へ
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