特集編1 日本製造業の勝ち筋を考える、その時のパラダイムシフト その1
- 1月29日
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1. 素形材産業こそ製造業の中核と認識せよ
素形材とは、素材と最終製品の間に位置する“成形、鋳造、ダイカスト、金属プレス、粉末冶金、金型”など、主に熱や圧力を加えて製品を作り出す産業のことを指す。勿論、機械加工や治工具、木型など中間に位置する産業のすそ野は広い。製造業の勝ち筋には「素材・素形材・製品」の3つの視点で考える必要がある。

一目瞭然、素形材なくして自動車や造船も工作機械や生産機械、半導体すら製造することはできない。鉄鋼や非鉄、樹脂など多くの新素材なども重要だが、素形材なくして製品にすることができない。一昔前は“鉄は国家なり”と言われたが、“素形材は国家なり”と認識を新たにしたい。
日本の製造業は、素材を形にする「素形材産業」によって支えられている。素形材の製造には多くの経験とノウハウが必要であり、その源流は、縄文期の銅鐸に代表される砂型鋳造や、石器・土器づくりに携わった職人たちにまでさかのぼる。
こうした技術と文化は、現在に至るまで、部品製造や金型・治工具の製作といった素形材の製造現場に脈々と受け継がれてきた。さらに、次々と開発される新素材に対応しながら、新たな素形材ノウハウを創出し、ものづくり技術を着実に継承し続けている。

生産機械や設備を買っただけでは成立しないのが素形材産業だ。日本の自動車がJAPAN as NO.1と評価された陰には素形材企業、特に中小企業と職人が支えていたことを忘れてはいけない。失われた30年といわれるが、その間も素形材は生き続けており、今こそ、その重要性を再認識すべき時が来たのではないか。なぜならその素形材技術こそ日本の国力の源泉だからだ。
中国や韓国では、かつて日本の製造ノウハウを習得するため、日本人の退職者の採用や人材の引き抜きが行われてきた。近年では、その成果を背景に、「もはや日本から学ぶものはない」とまで言われる状況になっている。しかしながら、日本の素形材産業の職人ノウハウ・判断基準、工夫・想像力は世界TOPであると断言できる。
人を育てる土壌、素形材を育む歴史と文化がなければ一長一短にはその技術は伝承できないこと、その土壌こそが日本の強みである。中国や韓国にはこのような土壌は醸成されていない。
にもかかわらず、国内における素形材主要7業種の事業所数が、この10年間で2万事業所から4割ほど減少し、1.2万事業所となった。特に9人以下の事業所が約4割減少しているのが実情だ。

経産省もその重要性は認識しており、日本の素形材産業の競争力維持・強化に向けた「素形材産業ビジョン」を策定している。素形材企業各社が、経営者がどのように事業環境の変化に対応し、何に経営資源を投資し、強化・成長戦略を策定していくべきか、同ビジョンはその方向性を示すものとして位置づけられている。2024年7月から「素形材産業ビジョン策定委員会」で議論が重ねられ、2025年3月28日に発表されている。

ちなみに私も前職で素形材センターの理事を経験していた時期がある。(金型と光造形産業分野)
2. 失われた30年、そして次の100年時代に向けた日本の素形材産業を考える
事業所数と従事者の減少が否めない。特に人口減に向かっている日本にとってこのままだと素形材産業のみならず主力の製造業も衰退しかねない。人口減に対応する考えられる方策を、センサ・センシング、IoT・デジタル化とロボットなど作業の自動化、AIによる製造支援などの視点から考察する。
3. 日本の強みを生かす素形材技術の継承を新たなデジタル製造現場への進化で転換
素形材産業の多くは中小企業で構成されており、経営者の高齢化や事業承継の問題、設備投資資金の不足といった課題を抱えている。なかでも深刻なのは、収益性が低下し「儲からない産業」となっていることに加え、若手人材が集まらず、魅力や人気に欠ける職種になってしまっている。
では魅力ある産業に再興するための手段として5つの視点で考えてみよう。
1) これからの若者に必要とされるデジタル職人を育てるセンサ・センシングと活用方法(活人術)
樹脂成形の現場では、“標準成形条件“は当然だが、実際には刻々と変わる春夏秋冬など環境条件や金型・材料変化などに応じて“極論すると日々生産条件を変えて良品生産を行っている。
若手社員は経験が不足しているため、ベテランの成形技術者に指導を求めることが多い。しかし、現場では人手不足によりベテラン技術者が複数台の設備を掛け持ちしているケースが多く、業務が多忙なため、必要なタイミングで十分な指導を受けられないのが実情である。

センサやセンシングシステムを導入することで、従来の「職人の感覚」に頼るのではなく、実測データや理論値に基づいて現象を理解・判断できるようになる。そのデータをどのように読み取り、判断に結びつけるかが、素形材産業における最も重要なノウハウであり、次世代へ継承すべき技術である。
これこそが、今後求められるデジタル人材の実践的な教育であり、将来の製造現場の姿である。特に現在の若手人材や女性は、デジタルを用いた学習への適応力・吸収力が高く、そのような環境が整っていない企業や職場には、魅力を感じにくいのが実情である。
2) 職人判断をデジタルデータから自動化・高度化支援、それがこれからのデジタル工場長
センサ・設備センシングデータは職人判断をさらに高度化し“閾値設定や異常警告を自動発信し”不良を未然防止することができる。次の100年はこうした製造を科学する「デジタル製造」の時代だ。当然、複数の機械や金型など大量のデータを裁く「デジタル工場長」が必要になり、新たな知見・ノウハウもそのソフトで集約され、継承されていく。人手不足対応、若手や女性の製造現場への活用が見えてくる。

Σはすべて製造情報の集積、「Σ軍師Ⅱ」はそのデータ分析・不良予知・予防監視で製造を支援する。従来の職人ノウハウ、判断、想像力はそのソフト、運用にて継承される。技術は金型・設備など素形材にて研究開発、要素技術開発の上で高度化される製造体制が望ましい。
3) 個の職人ノウハウからIoTネットワークによる“技術・ノウハウをつなぐデジタル製造”
次の100年の製造とは、従来の職人の個に頼った生産から、材料と、素形材の金型と、生産設備のネットワークによる生産、すなわちIoTによる“つなぎ、最小工数で最高効率の生産体制”へと移行する。

次の100年は、単一のSmart工場ではなく、グローバル生産に適合するつながる工場となる。FtoF(factory to factory)が次の100年工場のキーワードだ。但し、国ごとの文化や制度も違い、調達する素形材も異なり、苦悩するだろうが“日本の原理原則や品質第一、人を大事にする考え方”は決して外してはならない。
また、これからの製造現場の開拓人である職人やその新たなノウハウは不要にはならない。そこから生まれる“知見・ナレッジ“こそ日本の国力の源泉となり、一番重要なことを忘れてはいけない。
4)AIとデジタル製造の付き合い方と最も重要な“食わせる素形材データ:Σ軍師ⅡAI Plus”
素形材分野において最も重要なのは、材料から部品を生み出すためのノウハウであることは言うまでもない。
その経験値をデジタル変換するには人の頭の中の様々な技術・ノウハウ・創造力の抽出が必要となる。その手法としてSmart engineering手法やナレッジ電承システムを紹介してきた。AIで素形材設計・製造を支援するということは、“AIに食わせる“ノウハウデータ”が一番重要“となり、ナレッジ電承と共に、素形材のセンサ・センシングデータを食わせる必要がある。食わせたデータの活用は、人に寄り添ったAIでなければ間違った技術支援となり暴走を招きかねない。
そのため、当面はAIの判断結果をそのまま結論として使うのではなく、技術者が判断するための材料を提示する存在として活用することが重要である。
その一例が、Σ軍師Ⅱ AI Plusによるパレート分析だ。不良に対する影響因子の大きさを可視化(図式化)することで、技術者が優先的に対策すべきポイントを直感的に把握できるようになる。

大事なことは、このデータとそこから得られる判断基準や創意工夫の新たな知見であり、絶対に海外に流出させてはならない。日本の生命線である。
5)AIヒューマノイドロボット・産業ロボット開発のキーはセンサ開発と素形材ノウハウ経済安全保障
工場にはAIヒューマノイドロボット、産業ロボットが開発され、大量に導入される時代がすぐそこにある。産業用ロボットは、既に自動車産業など日本が先頭を走って導入が進んでいるが、実は、まだ、ロボットを“個“として人の代わりとなるスタイルが主流だ。勿論、協働ロボットなどの開発も進んでいるが、100年後を見据えた時には”ネットワーク協働ロボット「RtoR(robot to robot)」の開発が進む。
人型にしても「大脳・小脳・四指」の開発と「センサ・センシング」の開発はこれからだ。始めないとわからないことが多すぎるが、人とロボットの付き合い方・運用には実験導入が必要だ。その運用が素形材の発展となることは間違いない。当社も“素形材産業ロボット“を開発していきたい(当社研究開発部が推進)。

ロボット開発競争のキーとなる「大脳・小脳・四指」それぞれのAIは、食わせるデータが勝負になることを忘れてはならず、安易に取り扱ってはいけない。重要なことは、生産行為、素形材から得られる判断基準やノウハウ・創意工夫の新たな知見は絶対に海外に流出させてはならない。日本の生命線であり、経済安保と捉えるべきである。
5年度、10年後を考えた場合、企業毎、サプライチェーン含めた「素形材産業ビジョンの策定」が必要だ。今一度、日本の得意な製造協働体制・素形材サプライチェーン体制をデジタルで再興してもよいのではないか。
日本が国際競争に勝つためには底辺の中小企業とのサプライチェーン連携・デジタル職人の育成が必須と考える。日本を引っ張るトヨタ自動車さん、スズキさんなどの大企業の率先垂範を期待する。
利益を生むには=稼ぐ力を強化しなければ生き残れない、いづれにしても現状の職人頼りの製造現場では、5年程で工場経営が難しくなるのは明白だ。
政府の投資支援策への期待以上に、製品企業だけが儲ける企業風土ではなく、中小企業含めたサプライチェーン全体で儲ける日本の製造体系を早急に再構築する「儲かる製造業へのパラダイムシフト」必要な時だ。
次の章では、具体的な素形材業種ごとの「産業ビジョン・デジタル製造指針」を論じる。初回は金型産業と樹脂成形産業から始めよう。楽しみにされたし!
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