特集編1 その4 プレス編
- 3月31日
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プレス不良・プレス機故障を防止する「プレスモニタリン」:最新のデジタルセンサ・センシングの紹介
~日本のプレス技術の革新的デジタル技術開発~
1.緒論
日本のプレス技術は、現在大きな転換期を迎えている。なぜならプレス製造現場は人手不足、技術屋不足で事業継続が難しい時代に入った。
2020年に米国テスラ社が、自動車のアンダーボディをアルミ合金で一体成形する技術を導入し、その流れは中国の自動車メーカにも急速に広がった。従来、日本メーカは約70点のプレス部品を溶接して一体化しており、この新しい製造方法は大きな脅威となっている。一方ではギガプレスや超高張力鋼板などの開発も進んでいる。
このギガキャスト技術では、6,000トン級の大型鋳造機や、100トンにもなる巨大な金型が必要となるが、日本では設備や輸送面(道路の耐荷重やクレーン設備)の制約から導入が難しい状況だ。
一方で、この方式は部品点数を約70分の1に削減でき、コストも10%以上低減できるとされている。そのため、従来のプレス・溶接技術を持たない中国や米国のスタートアップ企業にとっては、非常に導入しやすい製造方法となっている。

しかし、この一体鋳造には課題もある。製品が大型化することで鋳造不良のリスクや損失が大きくなる点に加え、車両の衝突時には部品単位での交換が難しく、ほぼ一体交換となるため、実用面での課題が残る。
そのため、ユーザー視点では、日本メーカが採用してきたような分割構造(例:3分割ボディ)などの工夫も引き続き重要になると考えられる。
一方で、アンダーボディに限らず、プレス業界全体としてもさらなる技術開発と原価低減が求められている。特に、プレス不良の削減、突発故障による生産停止の防止、そしてメンテナンス費用の大幅な削減が重要な課題となっている。
プレス部品不良の原因は、材料・金型・設備の3要素の量産時の動的変位が主要因であることは周知の事実だ。課題は、量産中の動的変位を正確にリアルタイムにデータ監視できないためであり、本節では、量産中の動的変位を測定し、不良防止する最新の「歪・圧力・型温・材料温度・板厚・ミスフィード」等の無線センサを活用したプレスのデジタル技術革新を紹介する。
2. プレス部品不良の事象と原因、対策への課題
プレス金型の適用分野は非常に幅広いため、本節では自動車分野に焦点を当てて解説する。
自動車分野では、フェンダーやサイドパネルといった大型板金プレスから、モータコアのような高速・高精度プレス、さらにはEVのバッテリー容器やコネクタ・電装部品(薄物から厚物まで)に至るまで、幅広い領域で不良検知のためのセンサ・センシング技術のニーズが高まっている。
その背景にある共通の目的は、EVやバッテリーなどの新技術にも対応した
自動車メーカ・Tier1要望:不良を出さない・生産を止めない
である。
不良による材料ロスは、銅などの非鉄金属やレアアース、超硬材など円安で高騰しており、大きな問題となってきた。不良の原因は、金型起因が70%、設備・生産条件起因が20%、材料その他が10%と大別され、特に金型起因の不良原因と対策“センサ・センシング、そして不良分析・監視システム“のニーズが高い。
プレスは生き物を扱っているかのごとく、量産中の金型の加圧などの動的変動が常に付きまとう難しい工法だ。多くの先人が取り組んできたが職人的アプローチでは解明できず、この2~3年、大手自動車メーカ・Tier1中心に“デジタル金型・センシングの研究開発”が進行している。

金型周りの動的変位とは、圧力・歪・温度・振動と型部品摩耗と劣化(保全不足)、プレス機の異常、プレス機周りの環境温湿度、材料変動、油の変化などがある。その一つ一つに対応しないと不良は削減できない。
課題は、プレス現場は人手不足であり、かつ“紙”による記録が主体であり、データが生かされないのが実態だ。
こうした課題に対応するためには、すべての動的変位を無線によるデジタルセンシングで把握し、データを自動的に分析・処理する仕組みが必要な時代となっている。
3. 自動車メーカと進めている大物板金プレスの動的変位監視システム:無線センサ・センシングシステム©
1) プレス金型の段取り改善「ディスタンスブロック」センサと型内センサ・センシングシステム
大物板金プレスは軽量化、高剛性にむけて高ハイテン材など素材開発が進み、益々プレス技術、金型に対する高度化の要望が増えてきた。パネル等の大物金型は3000~5000トンの加圧でプレスするが、上型と下型の加重バランスが変動し、ワレやキレツなどの重大不具合を発生する。そのため、量産中の加圧動的変化をモニタリングし、異常を発見し、予防処置を取りたいとの要望がある。
現状は、上型と下型の間にディスタンスブロックやエンドブロックなどを配置し、職人が光明丹であたり確認し、0.1㎜単位のシム(板)をかませて圧力のバランス取りを行っている。勿論、金型段取り時は必須の作業で職人が数時間かかる場合もあり、加圧調整作業になるとベテランの経験や勘がものをいう世界だ。
【半導体ひずみセンサによるディスタンスブロック加圧調整センサによる段取り改善】
当社では、ディスタンスブロック開発した高精度の半導体ひずみセンサを加圧方向の側面に設置し、量産中の加圧動的変動と段取り時や加圧異常時のシム調整を半自動化する画期的な「加圧方向にディスタンスブロック加圧調整センサ」を開発し、販売を開始、既に号口の量産適用段階にある。

次に「エアマイクロ高精度型開センサ」について紹介する。この技術も複数の自動車メーカ様の板金プレス金型での検証が完了し、号口投入の段階に到達した技術である。
2) プレス金型の材料流入量をコントロールする「高精度エアマイクロ型開センサ©」の紹介
型開き量の測定は長年の夢であった。特にプレスにおけるシワ・ワレ不良は自動車メーカにとって致命傷であり、プレス材料の“流入量“のコントロールに”シワ抑ビード“の配置や形状に工夫を凝らしてきた。しかしながら、そのビード効果を可視化することができなかった。エアマイクロ型開きセンサは10μ単位で量産中のモニタリング計測できる画期的なセンサ・センシング開発である。

バンパー等の樹脂型やシリンダブロック等のダイカスト金型においてもエアマイクロセンサは有効と判断され、導入が進んでいる。
3) 金型温度とプレス材料温度測定からシワ・ワレ不良の原因究明:「サーモモニタリン」の活用
金型内部の圧力・歪・型開きの動的変化のモニタリングと同時に、プレス金型の温度・材料温度の動的変化計測へのアプローチも注目されている。従来から型温の影響は注視されており、熱電対などでモニタリンが行われてきた。また、工場内とプレス機内の温湿度変化による不良のプレス不良発生頻度の違いやパンチ・ダイスなどの破損で生産停止に追い込まれる“金型突発故障”が報告されている。春夏秋冬での不良・不具合の発生頻度の違いの要因はこれだ。

【ハイブリッドセンシングの構成】
①プレス機剛性検知センサ 半導体ひずみセンサ(角形・丸形)
②4ch高速サンプリングユニット(有線:1000spm以上にも対応・無線アナログユニット)
③パイロット穴を活用したミスフィードセンサ:材料送り、遅れ検知センサ
④サーモモニタリンによる金型表面温度・プレス材料温度センサ:最大12か所監視
⑤無線式工場・機内温湿度センサ&監視システム
⑥スタートアップキット&プレス歪センサキット:カスはさみ、2枚抜き、順送型歪ポイント検査
⑦Σ軍師Edge(現場)&Σ軍師Ⅱ(クラウド):データ一括収集、分析、予兆監視
Σ軍師ⅡAI Plus:パレート自動分析

4)センサ・センシングデータを現場で“データを取る⇒見る⇒分析⇒活かす”Σ軍師Ⅱ AI Plus
DXの導入目的は、何と言っても“利益創出”であり、プレス現場から“不良を出さない、生産を止めない”システムでなければ意味がない。プレス現場の生産データを一元管理し、せっかく取ったデータを活かしてなんぼである。Smart工場になればその製造現場のシステム専用の「電承FACTORY」システムが必要になる。

5) 自動車用板金プレス金型におけるセンサ導入効果(お客様の声)
長年、プレス不良に悩まされていたが、これからプレス金型もデジタル化の時代に突入した。
【ディスタンスブロックセンサ】導入効果
・金型段取りや圧力バランス調整時間の大幅短縮、圧力調整のデジタル記録が可能:不良の未然防止
・量産中の圧力動的変動モニタリング・可視化の達成。ワレ・キレツの発生メーカニズム分析:不良削減
【型内圧センサ】導入効果
・カスはさみ・異物混入時の不良発見:Σ軍師による型内圧分布の可視化、量産中のモニタリング可能
・金型圧力分布解析による金型強度設計の改良、CAE剛性解析とのデジタルツイン解析・仮説と実態の検証
【エアマイクロセンサ】導入効果
・型開き量の実測による材料流入量の変化のモニタリング、型開き量の可視化
・シワ抑えビードの最適設計が可能になり金型設計が向上した
【ディスタンスブロックセンサと型内圧センサとエアマイクロセンサの併用】効果
・金型外周部の圧力変動と内部の圧力変動、型開き変形の同期解析が可能、金型設計の改良が可能
・プレス金型の圧力・開き・歪など総合的な判断ができるようになった。
・データ分析・予兆監視にはΣ軍師Ⅱが用意されている。またAI・パレート分析機能もある
センサ・センシングデータ分析と不良・不具合撲滅・予兆監視には「Σ軍師Ⅱ AI Plus」が有効
4. 金型保全管理の重要性と金型IoT:金型電子カルテの新機能紹介
プレス製造現場における課題はセンサ・センシングだけではすべての課題は解消できない。重要なことは金型の劣化と異常管理・設備含めた保全/メンテナンスにある。また、プレス設備の保全管理も重要だ。
1) 金型IoT:金型管理システム©の紹介

【金型管理システム金型IoT導入効果】
・ワークフロー機能により業務管理を効率化し、ISO・IATFなどの品質管理にも対応
・ペーパーレス化とQR銘板で、型・棚・作業履歴のトレーサビリティをデジタル管理
・設備・可動連携(可動センサ)により命数管理を自動化し、メンテ計画や通知もシステム化
・不良履歴やコストを統計処理し、各種KPIを自動管理
・プレス向けトランスファ機能をオプションで提供
5. これからのデジタルプレス技術伝承:「ナレッジ電承」システム
溜まったデータをどう活かすか。知恵の絞りどころだ。当社では、「ナレッジ電承」という設計・生技向けのデジタルデータによる新たな技術伝承システムを販売している。

「ナレッジ電承システム」の特色は
①基本的な規格・過去トラ・マニュアル・ノウハウ集などの「開発言語とのリンク」機能
②開発管理機能:DRなどの開発イベントでの「指摘事項管理」の合格率提供:開発ゲート管理
③基本的なナレッジの提供(オプション):プレス・樹脂開発の基本的ノウハウ集
④デジタルツイン機能
開発源流の設計・生技と製造現場のプレスや樹脂センシング・不良データとつなぐ機能「現トラ機能」
⑤コミュニケーション機能:会話中の開発言語とナレッジの紐づけ機能、検索レス
⑥デジタル教育機能
⑦基本的な原価計算機能:金型費、部品費
【プレス機の突発故障防止にむけた監視・保全センサと連携した「設備IoT:設備電子カルテ」
プレス機の突発故障は、大きな損失につながる。特に、高圧かつ生産性を優先した無理な回転数で運転を続けると、故障のリスクが高まる。実際に、当社の自動車Tier1顧客のデータでは、年間で数億円規模の保全費用が発生している。
こうしたリスク対策として、振動などを検知する無線センサの導入を推奨する。これにより、異常の早期発見が可能になる。当社の「デジタル保全キット」は、振動・温度・温湿度センサをセットにし、92.5万円から提供している。
また、設備IoTとして、QR銘板とタブレットを活用することで、不具合や保全履歴を簡単に記録できる。さらに、蓄積したデータを分析することで、突発故障の予防や適正な部品在庫管理の実現にもつながる。

金型IoTとほぼ同様な機能を「設備IoT:設備電子カルテ」も有するため、詳細は割愛するが、特色は、
①プレス機の故障部位と監視・保全無線センサと連携:別売りデジタル保全キット
②QRコードと連携したプレス機などの設備保全システム:設備IoT:保全電子カルテ
③計画メンテナンス機能:メンテナンス通知機能
④可動監視(率)監視・積算機能
⑤各種センサ、M2M設備条件データと設備IoTが連携:保全や不具合・点検システムがオプション
製造プラットフォーム:金型・設備管理は同一プラットフォームで稼働するので、別々のデータサーバは不要
6. まとめ、展望:デジタルシステムとデジタル職人育成
金型・設備・M2Mソフトをはじめ、各種センサやセンシング技術と連携可能なIoT「製造現場プラットフォーム」が、ようやく完成した。プレス製造現場においても人手不足解消、技術陣のデジタル化推進と人材育成に向けて採用が始まった。また、これまで分断されていた現場データを一元的に可視化・活用できる基盤が整い、設計システム:デジタル電承と製造現場を結ぶ「デジタルツイン開発」でプレス金型のデジタル化も推進できるようになった。製造プラットフォームは高度なデジタル製造と管理を簡素化し、デジタル改善を推進できるデータベースとなっている。
そして、大事なことはデジタル「製造プラットフォーム」を使いこなす「デジタル職人」を育てることだ。人材育成は、製造現場で行われるべきで、決して机上だけでは無理だ。
本システムは、品質の安定化、生産性向上、保全の高度化を同時に実現するものであり、今後のデジタル時代におけるSmart工場の中核として活用されることが期待される。
デジタル時代のSmart工場に活用できる本格的電承FACTORYの完成だ。
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