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特集編1 その5 デジタル時代の機械設計技術伝承編「AIナレッジ電承」システム

  • 5月12日
  • 読了時間: 13分

デジタル化時代の設計技術やノウハウ伝承ソフト「AIナレッジ電承」の紹介、機械設計要素技術・研究開発



1.はじめに


 機械設計などの開発現場では、技術伝承と人材育成が大きな課題となっている。従来の徒弟制度的なノウハウ伝承やOJTだけでは、若手人材の育成が難しくなってきた。また、製品や設備のデジタル化・高度化が進む中、AI活用を含めた新しい設計開発の仕組みづくりも求められている。さらに、そこで生まれる新たなデジタルノウハウを蓄積し、継承していくことが、今後の開発現場における重要なテーマとなっている。

 本節では、これらの課題解決に向けたソリューションと導入事例を紹介する。



2. 技術伝承の課題と解決に向けた方策

 開発現場における最大の課題は、技術伝承にある。これまで蓄積されてきた設計ノウハウや、ベテラン技術者の経験・判断力といった“頭の中の知見”が、十分に継承されていないのが現状である。さらに、人口減少に伴い、若手エンジニアや女性人材の活用が求められているものの、従来型の教育手法では十分に対応できていないケースも多い。また、近年はAIによる技術支援の有効性も高まっている一方で、開発現場における技術者同士の「会話」やコミュニケーションが減少しており、それが技術継承をさらに難しくしている。


図1 日本の人口分布とこれからのデジタル社会の目指す技術伝承:ナレッジ承承システム
図1 日本の人口分布とこれからのデジタル社会の目指す技術伝承:ナレッジ承承システム

具体的な開発現場の課題をまとめると以下のようになる。


表1 具体的な開発現場が抱える技術伝承の課題とデジタルでの解決方策
表1 具体的な開発現場が抱える技術伝承の課題とデジタルでの解決方策

 当社は設立以来、この技術伝承の課題に取り組んできた。その一環として、アルプスアルパイン社などに対し、技術やノウハウをデジタルで蓄積・継承する「ナレッジ電承」システムを開発・提供している。これにより、技術伝承のデジタル化において高い成果を上げ、社長革新賞も受賞した。本節では、その「ナレッジ電承」システムについて紹介する。



3. 開発した「ナレッジ電承」の機能解説


1) 技術データを開発現場から「取る」:技術データの一元化(DB化)とコミュニケーション機能

①「ナレッジ電承」のシステム概要と基本となるシステムロジック:“ことば“の標準と情報プロセス


 開発現場では、設計マニュアルや過去のトラブル対策、図面、仕様書など、多くの技術資料やノウハウが日々蓄積されている。これらは設計者個人の経験や知見に依存する部分も大きく、ベテラン技術者の知識をどのように次世代へ引き継ぐかが大きな課題となっている。

 しかし現状では、紙やExcelで管理されているケースが多く、必要な情報を探すのに時間がかかるほか、若手や女性技術者が業務に慣れるまでに長い期間を要している。


 こうした課題に対応するため、簡単に情報を登録・共有できるデジタル型のナレッジ共有・開発管理システムへのニーズが高まっている。その一つが「ナレッジ電承」システムである。

 本システムは、複数企業で10年以上運用されており、設計ノウハウや開発情報を効率よく蓄積・共有できる。また、エンジニア同士の会話、メール、議事録などもコミュニケーションボードで記録できるため、重要な技術情報が埋もれず、技術伝承に役立つ仕組みとなっている。


図2 ナレッジ電承システムの概要と基本となる開発プロセス情報のIN/OUTと“ことば”の標準化
図2 ナレッジ電承システムの概要と基本となる開発プロセス情報のIN/OUTと“ことば”の標準化

 金型設計に必要なナレッジの紹介をする。「ナレッジ電承」には樹脂金型設計とプレス金型設計の当社技術支援コンサルチームがまとめたナレッジがオプションで購入できる。


図3 金型設計のナレッジ標準の事例と金型、金型部位、加工の標準化事例
図3 金型設計のナレッジ標準の事例と金型、金型部位、加工の標準化事例

 技術伝承を進めるためには、既存のノウハウや規格書を集めて標準化するだけでなく、開発プロセスで使われる「言葉・ことば」の標準化とIN/OUT情報の棚卸が必須であり、開発工程の流れを整理・統一することが重要である(当社ではこれをナレッジコンサルとして支援している)。


システム開発当初に実施した現場調査では、手戻りの原因の約80%が、

 ① 経験不足・検討不足

 ② 必要なノウハウを知らない

 ③ 資料の保管場所が分からない

 ④ 最新情報が共有されていない

 ⑤ ベテラン技術者に相談できない

 ⑥ 検図漏れ

などに起因していることが分かった。


 そこで、まず開発現場で使われる言葉や表現が部署ごとにばらついていたため、その標準化から着手した。また、ノウハウ集や過去トラブル資料には対策内容が十分記載されていなかったため、具体的な対策情報を追加・整備した。


②コミュニケーション機能©:技術情報・ナレッジの自動分類とナレッジの改定・更新、新ナレッジの自動抽出


 「ナレッジ電承」の中核となるのは、開発プロセスの情報と、エンジニア同士の会話ややり取りの記録である。特に、会話の中で使われる用語を標準化することで、システムによる自動分析や情報活用が可能となる。

 具体的には、会話内容から必要な情報を自動抽出し、①内容に応じたナレッジDBへの自動分類、②指摘事項や不具合情報のナレッジ化、③設計エビデンスや関連資料の改定支援などを効率的に行うことができる。

 ただし、最終的な判断や活用については、エンジニア自身が行うことが重要である。


図4 すべての開発情報を一発検索・会話の中にこそノウハウが存在する、その可視化機能を実装
図4 すべての開発情報を一発検索・会話の中にこそノウハウが存在する、その可視化機能を実装

 多くの企業では、設計図に対するDR(デザインレビュー)や指摘事項の管理を行っている。そこで交わされる会話や検討内容を可視化・デジタル化し、自動的にエビデンスやデータベースとして蓄積できれば、後からナレッジシートを作成する手間を大幅に削減できる。

 さらに、それらの情報を分類・分析することで、新たな技術ノウハウとして継承・活用することが可能となる。知識を組織全体で共有できる環境を整えることで、若手や女性技術者も活躍しやすい開発現場づくりにつながる。


2) 技術データを共有する「見る」:ナレッジ電承・デジタルツインと製造現場とのノウハウ共有

①製造現場の金型・設備・部品不良・トライ情報等と連携できるデジタルツイン機能


 近年は、すべての部品や金型を社内で一貫して開発・製造する体制が減少し、工場や製造工程の多くが外部サプライヤーに分散している。そのため、サプライヤーでのトライ立会いや現場確認が難しくなっている。

 特に、製造現場を十分に経験していない若手技術者が増えており、それが手戻りや不具合発生の一因となっている。

 こうした課題に対応するために開発されたのが「デジタルツイン機能」である。この機能では、製造現場で発生した不良情報や金型・設備の故障情報、さらにセンサ・センシングデータを、指摘事項や検索情報と連携して確認できる。

 これにより、現場へ行く時間が取れなくても、現在発生している“現場トラブル(現トラ)”をリアルタイムに把握することが可能となる。


表2 不良、不具合のナレッジ化と分類、重要なトライ・玉成ノウハウ
表2 不良、不具合のナレッジ化と分類、重要なトライ・玉成ノウハウ

  「ナレッジ電承」に集められた不良は宝の山だ。難課題(10%)、中課題(60%)、軽課題(30%)に分類すれば対策も簡単だ。軽課題対策はすぐにでも実行。中課題は規格やナレッジの見直しで3か月以内に対応可能、難課題は実験などで解決する。それを分析してコミュニケーションTOOLに盛り込む。トライ情報も重要なノウハウ資源となる。


図5 開発・設計者・解析者と現場をつなぐナレッジ電承のデジタルツイン機能
図5 開発・設計者・解析者と現場をつなぐナレッジ電承のデジタルツイン機能

 解析技術者も自身の解析条件が正しいか、“現トラ・実金型・設備データ”で検証できる。その為には、製造現場のデジタル化・センサ・センシングの導入と解析者目線の導入支援も必要でまさに共創開発現場だ。


②デジタルツイン機能の有効的な活用方法:金型センサ・設備センサ、ライン稼働等センシング情報活用指針


 最近、解析部門から金型内部の温度、圧力・型開きなどの動的変化情報とCAEデータの突合せ解析の要望が強い。解析者も実際の量産・トライデータを見て今後の改良判断につなげたいと熱望されている。勿論、設備設計者・生産技術者も設備・ラインの歪や圧力、振動、稼働温度情報もリアルタイムに知りたいとの要望もある。

 ①製品仕様→②構想設計→③仕様→④解析、そして製造現場の設備・金型設計、センサ・センシング仕様とつなげていく新たな開発プロセスが必要だ。その場合、サプライヤーもことも考慮することが肝要だ。


③「ナレッジ電承」の金型IoT&設備IoTでの開発情報連携と共有:製品トライ情報の連携機能


 設計者にとって、金型トライ情報や設備ラインでの製品トライ情報をリアルタイムに確認できることは、大きなメリットとなる。実際には、設計者や購買担当者は多忙で、すべてのトライ立会いに参加できないケースも多い。

 そこで、金型IoTや設備IoTと連携し、サプライヤー側のトライ情報をリアルタイムで共有できる仕組みを構築した。さらに、社内およびサプライヤーの金型・設備保全情報や不良情報とも連携可能である。

 サプライヤー側では、専用タブレットを用いて写真・動画・コメントなどの情報を入力でき、それらの情報はネットワークを通じて共有される。これにより、社内のDR会議などでも迅速に状況確認が行え、設計・技術・購買部門のデジタル連携を加速できる。結果として、サプライチェーン全体で大幅な工数削減と開発スピード向上が期待できる。


3)開発管理・データを「分析する」:DR進捗管理と指摘事項管理・検図機能・開発評価


  「ナレッジ電承」には、開発情報を活用するための分析機能と開発管理機能が搭載されている。プロセス管理、コミュニケーション、ナレッジ管理の各機能により、設計者がよく利用するナレッジや、利用頻度の低いナレッジを分析・評価することができる。活用度の高い情報はランキング表示され、利用されないナレッジは整理のため“ゴミ箱”へ移管される仕組みとなっている。

 また、コミュニケーションボードでやり取りされた新しい開発用語やノウハウも登録できるため、継続的に知識を蓄積・発展させることが可能である。


 さらに、重要な不良情報や指摘事項、検図情報にはフラッグを付けて重点管理できる。特に開発管理において重要なのがDR(デザインレビュー)管理機能であり、DR1、DR2、最終承認、量産図発行など各段階ごとに達成目標を設定し、指摘事項の対応漏れを防ぎながら進捗を可視化できる。これにより、管理者は開発状況をリアルタイムで把握できるほか、KPI管理グラフなどのオプション機能も利用可能である。


図6 ナレッジ電承のナレッジ評価・分析機能とワークフロー管理と関所を備えたDR開発管理機能
図6 ナレッジ電承のナレッジ評価・分析機能とワークフロー管理と関所を備えたDR開発管理機能

 実際の運用では、各DR(デザインレビュー)段階で設定された指摘事項の達成状況を「関所管理」としてチェックし、必要条件を満たしていない場合は、最終的に出図できない仕組みとしている。

 さらに、その進捗状況は設計部門だけでなく、購買部門など関係部署も含めて多面的に確認・監視できるようになっている。


 このような運用を実現するためには、会社全体として統一されたデジタル開発ルールや運用規定を整備することが重要である。

 また、本システムには、製品見積、部品見積、金型見積などを管理できるオプション機能も追加可能であり、開発から調達まで幅広い業務に対応できる。


4)具体的な「ナレッジ電承」運用成果:アルプスアルパイン事例


 ユーザー事例として、日経ものづくり2023年2月号や2025年7月のKMC第1回ユーザー会で発表された成果報告がある。実に68%の問題解決件数・手戻りを削減できた実績が報告されている。


図7 「ナレッジ電承」のユーザー事例とその導入効果
図7 「ナレッジ電承」のユーザー事例とその導入効果

 他、スズキ(株)の運用事例やポーライト(株)なども日本金型工業会で成果発表があった。技術伝承のナレッジ化の取り組みは、もう始めないと手遅れになる。



4. 技術データを「生かす」:「AIを実装したナレッジ電承」の開発とデジタル開発人材育成


1) 大規模言語モデルデータと大規模センシングデータによるAIソフト開発


 開発現場におけるAI活用では、大きく2種類のデータ活用が重要となる。

 一つは、開発エビデンスやコミュニケーション情報、過去トラブル、現場トラブル(現トラ)、最新の技術ノウハウなどを活用する「大規模言語モデルデータ」である。

 もう一つは、金型や設備のセンサ・センシング情報、生産設備の異常検知、生産停止情報などを活用する「大規模センシングデータ」である。


 すでにAIソフトの実活用は始まっており、当社の「ナレッジ電承」では、これら両方のデータを活用して、AIによる開発支援が行える仕組みを実装している。まずは現場で実際に使い、体感しながら活用を進めることが重要である。


図8 「ナレッジ電承」のAI実装アーキテクチャと技術支援AI、Σ軍師AIのパレート分析
図8 「ナレッジ電承」のAI実装アーキテクチャと技術支援AI、Σ軍師AIのパレート分析

 今年度は多くの企業から開発された「ナレッジ電承AI」と製造現場の「Σ軍師AI」の共同取り組みの依頼がある。この手の仕組みは、開発・製造現場・センサ/センシングデータの収集がカギを握る。有用なAI支援を受けるには多くのデータの蓄積が必要で、時間もかかるので始めるべし。


2)「AIナレッジ電承」によるDX人材育成、デジタル職人、デジタル生産技術の育成


 人材育成は、開発システムをデジタル化することで、より効果的に進めることができる。現在の若手や女性技術者は、経験や勘といった曖昧な判断よりも、データに基づく情報を重視する傾向がある。自らデータを分析し、新たな知見を得ながら成長していくことができるためである。

 そのため、まずはデジタル開発環境を整備することが、人手不足や技術者不足の解決につながる重要な取り組みとなる。


図9 「AIナレッジ電承」を駆使して、若手、女性は独自に進化・成長していく
図9 「AIナレッジ電承」を駆使して、若手、女性は独自に進化・成長していく


5. 機械設計の課題とデジタルを活用した高度化・要素技術開発


 機械設計における技術伝承も重要だが、要素技術開発と特にデジタルセンシングの共創開発と高度化が急速に進んできた。設備の配線レス、ロボット制御、減速機、無線給電センサ、地震対策の無線水準器、センサ内蔵金属タグ、無線主軸センシング、半導体ロードセル等、特に人手不足を補うAI自動化設備の開発、設備保全センサと監視システムの要望が高い。


図10 KMCへの委託研究依頼と要素技術開発・製品開発の事例
図10 KMCへの委託研究依頼と要素技術開発・製品開発の事例

1) 組み立てラインや設備機器の省配線システム:「無線IO」の技術紹介

 機械設計上、苦心するのが配線であり、設備保全上も断線やコネクタなどの故障は大きな問題だ。特に顕著なのが海外工場の設備保全であり、生産停止に追い込まれる。


2)設備保全センサの開発と無線水準器の開発の製品紹介

 ヒューマノイドロボットや設備ロボットの開発も進んでいるが、課題となっているのが日本の製造現場では15年以上の耐久性が求められ、その保全システム・センサの要求も強い。 また、工作機械や設備の水準管理も製造品質に大きな影響があり、その検査は保全員が行っている。要素技術開発、デジタルAI設備開発等閃絡投資判断が求められている。そのすべての新ナレッジを「ナレッジ電承」が継承する。


3)AIロボットの開発、その要素技術開発

 当社も次の100年にむけてAIロボット、AIセンサ、R2R(Robot to Robot)通信技術開発に着手した。まだ、まだROBOTの活躍の場は少ない。ブレークスルーする大きなチャンスと捉え、大脳、小脳。四肢、関連ソフトやセンサの開発はまさにこれからが正念場だ。


図11 AIロボットの3大要素:大脳・小脳・四肢の開発とKMCの機能部位&センサの開発
図11 AIロボットの3大要素:大脳・小脳・四肢の開発とKMCの機能部位&センサの開発

是非、共創・共栄の精神で、開発パートナー、共同開発の依頼先を募集する。



6.まとめ


 近年、技術伝承やデジタルツインに関する問い合わせが増加している。従来のアナログ中心の技術伝承から、次世代のデジタル技術伝承へ移行することが、開発・製造現場における重要な改革テーマとなっている。

 背景には、人材不足の深刻化により、新しいシステムや仕組みに取り組まざるを得ない状況があると考えられる。


 すでに先行して導入・活用している企業事例もあり、今後は多くの企業で取り組みが加速していくことが期待される。開発システムは単なる管理ツールではなく、人材育成や技術継承を支える重要な武器となる。


 
 
 

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